上杉隆 連載コラム 「前略、芝の上から」

2011.08.03


【第61回】
激闘!ダウンブロー・コンプレックス

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(前回のあらすじ)
ジャーナリスト・上杉隆は、中学・高校・大学時代を通じて、ゴルフに夢中な青春を過ごしていた。「大ちゃん」「イワオ」といった友人たちと、勉強を放り投げて白球を追う日々――。これは、彼と彼の仲間たちを中心とした、青春ゴルフノンフィクションだ!

「HOTEI」のステージの下で踊る
同級生・アライのエアギター。

 21年ぶりのコンプレックス。布袋寅泰が弾き、吉川晃司が歌う東京ドームでの2日間のライブは、約10万人を動員して幕を閉じた。

 通常、ライブの後には充実した疲労感で心身ともに満たされるものだ。とりわけ今回はあの「HOTEI」がステージ上にいるのだ。BOOWY時代からの習性として、そうなると、歌い、踊らざるを得ないだろう。

 案の定、ライブ直後に咽喉の痛みがやってきた。その後は大抵、筋肉痛がやってくる。そう、実際、いま私はふくらはぎと腹筋に猛烈な筋肉痛を宿している。

 だが、隣の席にいた大学同級生のアライ(新井悟史)ほどではないはずだ。アライはライブ中、ずっとエアギターで、係員の注意も聞かず、踊りまくっていたのだ。

「HOTEI」がそうするように左脚を高らかに上げ、首を振り続けている。同じ群馬出身というだけで「HOTEI」になりきって25年以上、めでたい男である。

「『見事な股関節ですね』と医者にも誉められるんだよ」

 ライブ終了後、当の布袋さんに、左脚を上げる例のスタイルのハードさを尋ねるとこう返ってきた。

「今回は、直前に左の首を痛めて、治療しながらのライブだったんだ。もう49歳、キツイよ(笑)」

 一方で、43歳のめでたい男アライの方は、「全身、筋肉痛だよ」と、その程度で嘆いている。やはり、本物と偽者の違いは歴然としている。

 僕ら中学生が、本物のプロのボールを見たのは新宿の日本テレビゴルフガーデンが最初であった。所属プロのイノウエさんが放つボールは正面のネットに上昇しながら、ぶち当たる。まさしく、ぶち当たるという表現どおりの球筋だった。

「おーっ!」

 イノウエさんが打つたびに、嘆声とも歓声とも判然としないような声を上げる大ちゃんと僕。人工芝のマットの先端に置かれたボールが100メートル先まで低く飛び、そこから急上昇してネットに突き刺さる様は何度見ても圧巻だった。

「きちんとダウンブローに捉えれば、誰でもこうした球筋を打てるよ」

 小さな声でハニカミながら、そうつぶやくプロゴルファーの言葉を僕たちが疑うはずもない。レッスン以外のお客さんには、わずかでもアドバイスしてはいけないとでもいうくらい、小声のイノウエさんの言葉を、僕たちは秘密の暗号のごとく胸に刻み込んだのだ。

「ダウンブロー」

「誰でも打てる」

 この二つの呪文は、即日、ぼくたちを虜にした。ダウンブローに打てば、きっと誰でもあの浮き上がるボールを打てるはずだ。

 夜、大ちゃん家の裏側、神田川沿いの遊歩道に到着した僕は、すでにプラスティックのボールを打っているライバルに声をかけた。

「ダウンブロー、だよね。打ち込まないといけないんだろう」

 人工芝を擦るような音は失敗の証である。素振りでは、人工芝のマットが大きく動くようなスウィングこそ、あのプロのようなボールを打つ秘訣、僕たちはそう信じて打ち込み続けた。


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