上杉隆 連載コラム 「前略、芝の上から」

2011.07.28


【第60回】
激闘!サンコーCCダブルス・完結編

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(前回のあらすじ)
1980年代、ジャーナリスト・上杉隆は、ゴルフに夢中な青春を過ごしていた。中学3年のある日、スーパーマーケット「サンコー」横の空き地を勝手にゴルフ場に見立てた「サンコーCC」を舞台に、少年たちはダブルス戦を企画する。次々に強豪チームが結成されるなか、大穴と見られた、「コバ」と「ムーチン」の不良ふたりによる『史上最悪・最低のチーム』が快進撃を開始する。

早朝のサンコーCCに
徹夜明けの二人がやってきた。

 人間の記憶とは実にいいかげんなものである。絶対にそうだと確信しているものでも、実際は、微妙に記憶違いだったりすることがある。

 ましてや、それが30年近くも前のことならば、なおさらである。そして、古い記憶は、多くの場合、自分に都合のいいように塗り替えられていることが少なくない。

「あの組み合わせ、絶対に違うよ」

 前回の連載に関して、早速、苦情が入った。大ちゃんからである。

「おれ、イワオとチーム組んでいないよ」

 そんなバカな……。では、あの記憶に刻まれたサンコーCCでのゴルフのシーンはなんだったのか?

「いや、ちゃんと組んでいた気がするよ。あれ、でも、イワオとは俺が組んでいたのかな~」

 ヨデブも疑問を投げかける。なぜ、こんなにもそれぞれの記憶が異なるのか。時間の経過がそうさせているのか、あるいはまた単にそれぞれの頭が弱いのか。

「いや、何度かチーム替えしているから、きっとそういう組み合わせもあったんだよ。表の通りで合っているはずだよ」

 組み合わせ表を作った鈴っちゃんが自らの正しさを強調する。

 そう、情報の多様性は重要だ。たとえ、誤報があったとしても、それによってこうやって修正される可能性があるではないか。やはり自由報道協会を作ってよかった。

 それにしても、この会話は通夜の席上で行われているものである。なんと不謹慎なことであろう。

 30年前の知人の遺影の前で、ゴルフの記憶のあいまいさを論じている元少年ゴルファーたち……。そう、ゴルフ論議になると僕たちは場所も時間も、そして状況も選ばないのだ。それは30年前から一貫して変わらぬ姿勢である。ここには記憶違いはない。

 ひとつのボールを交互に打つダブルスマッチは、ぼくたち中学生にとって、最高の遊びでもあった。

 普段、集団暴走行為や徹マンに精を出しているため、朝陽を浴びることの少ないコバとムーチンですら、ダブルスのスリルに魅せられて、サンコーCCにやってくるのだった。

 とはいえ、二人が早起きをするはずもない。単に、徹夜明けのままコースにやってくるのであった。

「おーい。打つぞー。どりゃー」

 他のチームが眠い目をこすりながら静かにプレーしているのと相反して、テニスプレーヤーとミュージシャンによる凶暴なチームは、ゴルフに相応しくない奇声を上げ、いきなりハイテンションである。

 夜の危険な勢いをそのまま神聖なゴルフコースに持ち込んで、騒がしいことこの上ない。同時にゴルフ自体も騒がしいものであった。


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