上杉隆 連載コラム 「前略、芝の上から」

2011.06.22


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大ちゃんはワトソン、イワオはノーマン。
そして私は、もちろんセベ!

 「なんだよ、いまのボール。二段階の伸び上がり。グレッグ・ノーマンかよ」

 ダウンブローから打ち放たれたイワオのボールは、最初低く飛び出し、100ヤード先から急上昇、最後には上空で止まったように見えてゆっくりと降りてくる。その力強いボールはイワオの専売特許であった。

 だが、イワオがいつもそうしたボールをみなに披露できるとは限らなかった。大抵、10回に5回は左右にボールを散らし、残りの5回のうちの4回はボールの前の地面を叩くことになった。

「よしっ」

 しかし、イワオは気にしない。10回に1回の成功に自ら酔いしれる男だったのだ。ボールがグリーンに落下するよりも、むしろバックスピンを伴って急上昇する力強い弾道を求め続けたのだ。

「似てる。セベに似てる。打った後のその身体の傾け方、完璧!」

 激しくボールを強打した後、私はボールの行方を見据えながら、歩き出す。強く打つことこそがすべてだ。結果は求めない。問題はその後の歩き方にある。

「セベのセクシーさが出ているよ」

 目標を見据え、口元を引き締めて飛球線を見つめる。それはセベから学んだ特有の表情だ。

 必ずしもボールをフェアウェイに運ぶ必要はない。いや、むしろ、できるだけ大胆にボールは曲げた方がよい。それこそセベの真骨頂だ。

 ボールが左右に曲がった分、身体のひねり角度も増し、ますますセクシーに見えるはずだ。私は、見えない自分の動作に酔い、セベに近づいた自分自身に満足するのであった。

 美しさで大ちゃんに、力強さでイワオに、それぞれ完敗した私は、誰も持たないセクシーさを追求し続けた。

 そのために、ゴルファーとしての私のスコアは、少しもセクシーでない結果をもたらすことになったのである。

[ 第55回 終わり ]


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