上杉隆 連載コラム 「前略、芝の上から」

2011.06.15


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東北の海岸沿いで見つけた
強風が吹く"リンクス"。

 十分にあたりを観察し、ゴルフをしても、それを咎めるような人がいないことを確認した後、私たちは素振りをはじめた。

 強風が吹き付けている。きっと恒常的に吹いているのだろう。そのためだろうか、その岬には低い潅木しか見当たらない。

 まるでスコットランドのリンクスの趣だ。もちろん、それは想像にすぎない。だが、当時はそれでよかったのだ。実際に私がスコットランドを訪れるのは15年後のことである。しかし、若者の想像力がそれほどハズレていないことは、その際に確認できたのだった。

 海風が吹き付ける岬で、私たちは慎重にボールを打ち始めた。アプローチで軽く転がす程度だが、これからはじまる楽しい戦いをかみ締めるようにゆっくりと打ち始めたのだ。

 強く打ってしまうといけない。きっと貴重なボールは激しく岸壁に打ちつける波濤の藻屑となってしまうだろう。

 岩場に打ち付けるすぐ近くを犬と散歩する漁民が不思議そうに私たちをみている。それはそうだろう。見かけない若者3人が、いきなり東北の漁村に現れ、ゴルフクラブを振り回しだしたのだ。

「すごい風だな。これじゃ大きく打てないな」

 私は二人の同行者に向かってつぶやいた。だが、すぐにその声は風と波の音でかき消される。雲間からのぞく太陽は次から次へと流れてくる雲ですぐに隠れてしまう。そして、日陰になった瞬間の寒さといったら……。

「スコットランドの夏は寒いんだ。リンクスで戦っていると思えば、これしきの風にへこたれてはいけない」

 風にかき消されないよう、少しばかり声を張り上げて、私はクルマに戻りたがっている二人を鼓舞しつづける。

「こうした状況では低い弾道が求められるんだ」

 私はリンクスでの闘いを想像して黙々とボールを打ち続けている。

「オレ、あっちの方に散歩に行ってくるよ」

 申し訳ないといった風で、まずアライが離脱した。そう言いながら、灯台の方に歩いていってしまったのだ。

「情けないやつだ……」

 私は、アライの背中を見ながら、オッキーに向かってそうつぶやいた……、が、その姿はない。そう、寒さに耐え切れずクルマに戻っていたのだ。

 今回の津波で、あの岬も、あの港も襲われた。きっと、あの緑の芝も変わってしまっただろう。

 だが、同じ風は吹いている。いつかの日か、また、あのリンクスも復活するはずだ。

[ 第54回 終わり ]


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