上杉隆 連載コラム 「前略、芝の上から」

2011.02.08


【第41回】
発見!18歳の、ゴルフ「我が闘争」

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(前回のあらすじ)
1980年代、ジャーナリスト・上杉隆は中学・高校生活をゴルフに捧げたひとりの少年ゴルファーだった。しかし、田舎の大学ならばゴルフ三昧だろうと入学した都留文科大学(山梨県)には、ゴルフ部も、ゴルフサークルも存在しなかった。一瞬の絶望の後、すぐさま上杉は大学の駐車場脇の建設会社・大建総業の敷地内にプライベート練習場を発見。そこを自由に使わせてもらう約束を取り付けた――。

ゴルフ部新設のため、中核派の
巣窟だった学生部に向かった。

 ゴルフのない生活は身にしみる。

 とりわけ、緑深き田舎に住みながら、ゴルフクラブを一切振ることのできない環境は、何かの「罰ゲーム」かと紛うほどの試練を私に与える。

 都留文科大学での学生生活をスタートさせた私は、まさしくそうした試練の中にいた。ムササビが飛び、ときどき熊がやってくるほどの深い自然の中に学び舎を置きながら、もっとも自然と近いゴルフというスポーツが、完全に無視されていることを私はどうしても理解できなかった。

 ゴルフ部どころではない。なにしろ、学科にはゴルフをする教授すらいなかったのだ。

 立派な弓道場や有名なムササビ研究会はあるが、ゴルフに関するものは一切ない。それはあたかもゴルフを「プチ・ブル」のスポーツとして、大学全体で敵視しているかのような扱いだった。

 専攻は英文科であった。3年で英文学(シェイクスピア)、4年になって米文学(19世紀米文学)と専攻コースは細分されるが、それまでの1、2年では、多くの大学でそうであるように、「リベラルアーツ」(教養)こそが講義の主役であった。

 シェイクスピアの古英語を読みこなせるようになれば、自然、17、18世紀のR&A(※ロイヤル&エンシェント。世界のゴルフの総本山・編集部注)の文献やスコットランドのゴルフ史などの資料も読めるようになれる、という将来の淡い期待を抱きながらも、1年生の私はまだ、退屈な一般教養課程を受ける義務と戦っていた。

 とはいえ、そのおかげで講義中であろうが、なんであろうが、私はいつでもゴルフの世界へ空想の旅に出掛けることが可能だったのである。

 そんなある日、教室の窓から何気なく校庭を見ていると、ラケットを持って走り回っているテニス部員の姿が認められた。テニスコートはもっと山の上にあるはずだ。なぜ、校庭で練習しているのか――。

 よくみれば、それは軟式テニスボールでの練習であった。その瞬間、講義中の私の中に閃きが走った。

 軟式、いやプラスティックのゴルフボール、あれならば校庭でも打てる――。

 空想は想像に、想像は確信に変わった。

 短絡は若さの特権でもある。早速、講義を抜けて大学事務の窓口に行く。ゴルフ部新設のために必要な手続きを行なうためである。

「部活や同好会の申請手続きはここだけではなく、学生部からの推薦も必要です。まずは学生部に行ってください」

 当時の学生部は中核派の巣窟である。ノンポリ、ゴルフ一色の新入生の私にとって、立て看板やアジビラに記された「5・3闘争」「殲滅せよ!」という文字は、脅威以外のなにものでもなかった。

 ただでさえ、ブルジョア資本主義打倒を掲げる組織に、よりによってブルジョアの象徴ともいうべきゴルフ部の申請を願い出るのだ。もしかして、そのまま自己批判をさせられる羽目に陥り、場合によっては、ゲバ棒の餌食になるかもしれない。

 私は恐る恐る「天皇制打倒!」と書かれた立て看板の脇を抜けて、学生部の建物に入った。

「ゴルフ部? いいわね。私も早くそういうのができないかなと思っていたのよ。じゃ、ここに代表者の名前と担当教官のサインをもらって、規約を添付してまたこちらにもってきてね。その後、事務局に提出すればOKよ。がんばってね」

 ……なんだ。妙に優しいではないか。そう、極左活動家といっても所詮は同じ学生だ。確かに机の上に置かれたヘルメットと、黒いサングラスに多少の違和感を覚えたが、それさえ気にしなければ大したことはない。

 私の大学生活の前途が、急に開けてきたような気がした。

「ゴルフ部? 無理だろう、うちの大学じゃ。誰も入りはしないし、なにより場所がない」

 講義の終了と同時に、勢いよく教授に近づく私の生活がスタートした。質問のためにではない。ゴルフ部顧問の就任を、手当たり次第にお願いするためである。

 だが、色よい返事をもらえることはなかった。まさか、それが半年も続くとは予想だにしなかった。

 その間、親友の新井や沖山とともにクラスの女の子たちを誘って、大建総業のゴルフ練習場に通う日々が続くのであった。

[ 第41回 終わり ]


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