上杉隆 連載コラム 「前略、芝の上から」

2011.02.01


【第40回】
発見!大建総業ゴルフ・レンジ

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(前回のあらすじ)
1980年代、ジャーナリスト・上杉隆はひとりの少年ゴルファーだった。中学・高校とゴルフに夢中な日々を過ごした彼は、受験勉強のため、一旦はクラブを置く。見事受験には成功したものの、入学した都留文科大学にはゴルフ部も、ゴルフサークルも存在しなかった。絶望しかけた彼の脳裏にひとつの記憶が甦る。大学の入り口の横、建設会社の建物の脇に、グリーンのネットがあったはずだ――。

豪快に笑いながら、社長は僕に
ドライビングアイアンを渡した。

 建設会社の脇を抜けると、そこはゴルフ練習場だった――。

 あたかも川端康成のような心境で、私はひとり心を躍らせていた。

 なにしろ近い。そう、ほとんど都留文科大学の敷地内といっていいほどの場所にある。

「大建総業」と書かれている会社の看板の前を通って、建物の向こうに見える緑のネットに近づいていく。

 すると、快音を響かせてボールを打っている男の姿がみえた。

 広い肩幅で、大きく体重移動をして強力なボールを正面のネットにぶつけ続けている。奥のネットまで40メートルほどはあるだろうか。

 打席は4打席。その一番奥からロングアイアンで放たれたボールがネットに突き刺さっては落ち、突き刺さっては落ち、その度に改造した雨どいを走って、打席横のボール収納の箱に戻ってくる。

 しばらく、そのスウィングに見とれていると、男が声を掛けてきた。

「なんだ! なんか用か?」

 逆光のため、表情はよく見えない。だが、ことば遣いとは裏腹に声色は優しい。思い切って尋ねてみた。

「あの~、そこの大学の者なんですが、打たせてもらえませんか?」

 男が練習を止めて、ゴルフクラブを持ったままこちらに近づいてくる。

「なんだ、文大生か?(都留文科大学生の地元での通称)。おまえ、ゴルフやるのか? 文大生がゴルフ? 珍しいなー」

 私は、緊張したままうなづくと、小さくなって新入生であることを伝え、オリエンテーションを抜けてここに来たのだ、ということを伝えた。

「はっはっはっ」

その男、じつは「大建総業」の小俣社長は豪快にこう笑うと、さらに続けた。

「いいぞ、ここは俺の練習場だ。ほら、打ってみろ」

 そう言って渡されたのは年季の入ったドライビングアイアンだった。そんなクラブで打てるわけがない。大体ボールが上がるはずないじゃないか。

 私は、戸惑いながらも心の中でそう思うと、思い切ってこう頼んだのだった。

「いや、今日じゃなくて、これから毎日、ここ、使わせてもらっていいですか?」

「毎日? おまえ、毎日来るのか?」

 目を見開く小俣社長。その表情をみて、私は慌てて付け加えた。

「いや、お金は払います。いや、あんまりないから、雑草抜きとか、会社のまわりの掃除とかしますから、あの~」

 そこまで言うと小俣社長は言葉をさえぎってこう言った。

「ここは練習場じゃないから金なんていらねえよ。別に来たければ、来ればいいさ。きちんと後片付けをして、ルールを守って使ってもらえば構わねえよ」

 絶望で始まった大学生活が、一瞬にして輝き始めた。私はお辞儀をして、「あとで来ます。ありがとうございます」というと、走ってオリエンテーションの開かれている教室の方に戻っていった。

[ 第40回 終わり ]


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