上杉隆 連載コラム 「前略、芝の上から」

2011.01.11


【第37回】
はじめてのバーディを覚えていますか?

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(前回のあらすじ)
1980年代、ジャーナリスト・上杉隆はゴルフに夢中な高校生だった。中学時代からの仲間であるイワオ、ヨデブ、大ちゃん、鈴っちゃん、エテパンといった個性的な面々と彼は、新宿・戸山公園の「箱根山CC」、地元スーパー脇の空き地の「サンコーGC」といった、勝手に名づけた“ゴルフ場”で腕を磨き、たまのラウンドを夢見ていた。今回は、そんな上杉の「人生初ラウンド」秘話が明かされる――。

オーランド滞在中、私のツイッターに
魅力的なつぶやきが流れた。

 結局、スペースシャトルは飛ばなかった。

 昨年秋、米フロリダ州ケネディスペースセンターでの打ち上げに備え、意気込んで米国入りしたものの、それは完全な空振りに終わろうとしていた。

 デイトナビーチ近くのホテルから連日レンタカーを走らせるものの、宇宙飛行士との会話か、もしくはびくともしないシャトルを眺めるだけ。やがてそれも飽きてきた。

 連日の延期により、発射のめどは立たない。いよいよ、日本に向けて旅立たなくてはならない日も近づいてきた。その前夜、私は翌日のフライト前に、なんとかワンラウンドだけでもしようと、ホテルのコンシェルジュにいろいろと尋ねていた。

 なにしろ、フロリダはゴルフの楽園である。グレッグ・ノーマン、タイガー・ウッズ……、実に多くのスタープレーヤーがゴルフのための環境を求めて、自宅を持ち定住している街である。

 私は、スペースシャトル打ち上げよりも素敵な思い出を作るため、インターネット上で可能な限り伝統的なゴルフ場を探していた。

 そのときである。私のツイッター上のタイムラインに魅力的なあるつぶやきが流れたのである。

〈上杉さん、もしまだオーランドに滞在しているようでしたら、明日、ラウンドをご一緒しませんか?〉

 スペースシャトル以外のオーランドの名物といえばディズニーワールドである。まさしくその夜、夢のようなつぶやきがミッキーマウスの影とともに私の部屋を支配したのである。

 いや、ミッキーマウスはやってきていない。単に、壁に飾ってあるミッキーマウスのイラストが影に見えただけだ。それにしても、なぜ、部屋にミッキーがいるんだろう――。

 気を取り直して、そのツイートの主は、プロゴルファーのアンディ和田氏であった。ゴルフチャンネルの解説者として知られるオーランド在住の和田氏が、私の寂しいツイートに同情してラウンドを誘ってくれたのである。

 翌日、レンタカーのナビと携帯電話を頼りにオーランド屈指の名門コース、オーランドCCのゲートをくぐった。

 アンディ氏は、クラブハウスの外で私の到着を待っていてくれた。初対面である。

 仮に、ツイッターがなければ、アンディ氏とは一緒のラウンドどころか、遭遇さえしていないだろう。

「なぜツイッターでつぶやくと日本が変わるのか?」(晋遊舎)。これは拙著のタイトルであった。いやらしく宣伝してみたが、ツイッターはこのように世界の寂しいゴルファーを救うツールにすらなっているのである。まさしくツイッターがゴルフ文化までをも変えようとしているのかもしれない。

 オーランドCCは名門の名に恥じない面構えをしている。約一世紀の伝統はクラブハウスやメンバーの振る舞いにも表れている。その中でも、もっとも洗練されているひとりが実はアンディ氏なのである。

「やぁ、おはよう。調子はどうだい?」

 アンディ氏はコースのいたるところで出会うメンバーたちに、にっこりと笑いながら近づくと、こう語りかける。また、コース沿いの家の住民が顔を覗かせれば、そこにも近寄って彼らにも話しかけている。

 米南部ではいまだに人種差別の空気が色濃く残っている。ゴルフは歴然として白人の上流階級のスポーツであり続けているようだ。

 そうした中、アジア系で初めてメンバー(おそらく)になったアンディ氏の苦悩は小さくないだろう。それゆえだろうか、アンディ氏の他のメンバーへの気の遣いようは大変なものであった。

「上杉さん、せっかくのゴルフです。きょう一日は楽しんでください」

 そういいながら、アンディ氏は自らの予備のクラブセットを差し出した。こうしてスペースシャトルの打ち上げの代わりの、オーランドでの初ラウンドが始まったのだった。


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