上杉隆 連載コラム 「前略、芝の上から」

2010.12.15


【第35回】
来た。見た。買った!軟鉄鍛造。

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(前回のあらすじ)
1980年代、ジャーナリスト・上杉隆はゴルフに夢中な高校生だった。中学時代からの仲間であるイワオ、ヨデブ、大ちゃん、鈴っちゃん、エテパンといった個性的な面々と彼は、練習場でのバイトでお金を稼ぎ、少ないラウンドのチャンスにすべてを賭ける日々を送っていた。お金はない、クルマもない、会員権もない、しかしゴルフを愛する心は誰にも負けない彼らを中心とした、これは「青春ゴルフノンフィクション」だ!

米国から帰国後、鶴舞カントリークラブで
中井プロと雪野アナにお会いした。

  新しいアイアンセットが届いた。フォーティーンの新製品TC‐510フォージドである。

 11月4日朝、米国からの飛行機を降り立った私は、その足で千葉県の鶴舞カントリークラブに向かった。12月にゴルフネットワークで放映されるギア紹介の番組に出演するためである(現在放映中)。

 クラブハウスで共演の中井学プロと雪野智世アナウンサーに挨拶する。元テレビ朝日の雪野アナの美しさに見とれている間もなく、私は、アイアンセットの待つ練習場に向かった。

 その時点でクラブは未発表の品である。憧れの軟鉄鍛造だということだけは聞いていたが、なにしろ誰一人まだ現物を見たことがないのだ。

 そして私は、見た。触れた。握った。

 もちろん、雪野アナの手ではない。同じく美しいフォルムのその軟鉄鍛造クラブに、である。誤解なきようにここに明記しておく。

 美しい芝の鶴舞の練習場に立つと、私はそのままピッチングウェッジで2、3球打った。

 ボールは高く上がった。飛んだ。そして止まった。

 その瞬間、私はひとりのユリウス・カエサルになっていた。いや、カエサルはたぶんゴルフをやっていない。塩野七生の本にもゴルフをやっているくだりは一切出てこない。

 いや、塩野さんに聞くまでもない。カエサルは絶対ゴルフをやっていないと断言できる。なにしろ2000年前だ。まだゴルフという競技そのものも発祥してない。

 だが、これだけは断言できる。仮にカエサルが生きていたとしたら、その軟鉄鋳造に惚れていたに違いない。無理か。

 思えば、私の前のクラブも軟鉄鍛造アイアンだった。有楽町のビックカメラで見た瞬間、あまりの美しさに衝動買いを決めてしまったものだった。

 いや一応相談はした。チョイス編集部に電話をし、このクラブが私にふさわしいかどうか訊ねてみたのだ。

上杉「ミズノのMP‐67なんだけど、どう?」

チョイス「評判のいい、人気クラブのひとつです」

上杉「あまりに美しすぎる軟鉄鍛造なんだけど……」

チョイス「マッスル系ですね」

上杉「そうか。じゃ、筋肉をつけよう」

 こうして購買を決めた私だが、その後、筋トレをすることもなく、想像通りの苦しいラウンドが続くことになった。

 その同じ軟鉄鍛造アイアンで打っているにもかかわらず、私のボールは信じがたい球筋を描いている。いったい何が起きているのか。

 こんなに簡単にボールが打てたのは初めてである。ローマ時代とはいわない。なぜ、このクラブが私のジュニア時代になかったのだろうか。


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