上杉隆 連載コラム 「前略、芝の上から」

2010.11.09


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コンパクトトップの特訓中に
弟を襲った悲劇……。

 疑問にぶつかればとにかく試してみる。それが私たち新宿の少年ゴルファーのモットーであった。

 実は、小さなトップオブスウィングで打つことは極めて難しい。常に同じ位置にグリップを持ってくる反復性もさることながら、なにしろ切り返しのタイミングが限りなく困難になる。それを少しでも間違えれば、スウィング全体を台無しにしてしまう危険性があるのだ。

 だが、新しいもの好きの私は、早速ダグ・サンダースの小さいトップを取り入れるべくスウィング改造に取り組んだ。

「ははは、なんだ、それ」

 ヨデブが笑う。

 極小のコンパクトトップを目指した私の改造スウィングは、ほとんどアプローチを打つかのようなスタイルになったらしい。

 だが、そんな「誹謗中傷」など気にしていられない。よいショットとよいゴルフのためにはスウィングを犠牲にすることなど、計算ずくなのである。

 私は、ダグ・サンダースのコンパクトトップ習得のため、昼夜を問わず特訓を始めた。

 なにしろ「テレフォンボックススウィング」というくらいである。その利点はスウィングの練習にスペースを要しないことだ。

 だから私は、教室の片隅でも、電車の中でもシャドウスウィングを繰り返したものだった。もう少し広いスペースがあれば、もちろんクラブを握っての特訓になる。

 ある日のこと、私は自宅の居間でいつものように大ちゃんとゴルフ談義を繰り返していた。話題はダグ・サンダースのトップオブスウィングに及ぶ。私は、ベランダのキャディバッグからサンドウェッジを抜き取り、スローモーションでのスウィングを始めた。

 すぐ横にはまだ小学生だった弟が座って、テレビを観ている。私はゴルフクラブの先で突っついて弟をどけると、居間に電話ボックス並みのスペースを作りだすことに成功したのだった。

 不本意な移動を余儀なくされた弟は、不満に口を尖らせながらも、小さくひざを抱えてテレビを観ている。これでやっと私は特訓を開始できる。ダグ・サンダースをイメージして、私はクラブを振った。

 バーン!

 その瞬間だった。大きな爆発音とともに、辺り一面が真っ白になり、その白い煙の中から弟が変わり果てた姿で現れたのだった。

 何事か。私はすぐに事態を理解した。私は計算違いをしていたのだった。ダグ・サンダースのトップは確かに小さかったが、フォロースルーは通常のスウィングと変わらなく大きいことを忘れていたのだった。

 そのため、私のサンドウェッジは居間の天井から下がっている蛍光灯を見事に直撃し、結果、直下に座っていた弟の頭上に真っ白なガラスの粉を降らせることになったのであった。

 ガラスの白い粉をかぶった弟は、目をぱちくりさせながら、いったい何が起こったのか、いまだ理解できないでいる様子だった。

 その日、粉々になった蛍光灯のガラスを片付けている大ちゃんの姿を見ながら、私は、ダグ・サンダースの「テレフォンボックススウィング」の習得を諦めたのであった。

[ 第30回 終わり ]


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