上杉隆 連載コラム 「前略、芝の上から」

2010.10.26


【第28回】
「2位でいいんです!」

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(前回のあらすじ)
気鋭のジャーナリスト・上杉隆は1980年代、ゴルフに夢中なひとりの中学生だっ た。大ちゃん、イワオ、鈴っちゃん、ヨデブ、エテといった同級生の仲間たち と、「箱根山CC(新宿・戸山公園を勝手に命名)」、「新宿パターGC(無料 パッティング施設を勝手に命名)」で、大好きなゴルフとその練習に精を出す日 々。これは、上杉とゴルフで繋がれた仲間たちが織りなす、「青春ゴルフノン フィクション」だ――。

レクサス晴海のラウンジで
見慣れないゴルフ雑誌を見つけた。

 ゴルフといえばクルマ。クルマといえばトヨタ。そして、トヨタといえばレクサスである。宣伝ではない。純粋な気持ちでこのコラムを書いている最中なのである。

 そう、私はいま「レクサス晴海」のラウンジにいる。翌日にラウンドを控えたこの夕刻、私は愛車の点検のためにここを訪れているのだ。

 正しいゴルファーの姿勢として、クラブとクルマの点検は欠かせない。安全のため、スコアのため、そして、迫りくる締め切りのため、私はこのラウンジを連日のように訪れている。

 何を隠そう、私はかつてラグジュアリージャーナリストと呼ばれていた。いや呼ばれていない。自称である。だが、自称でもなんでもいい。ラグジュアリージャーナリストを目指していたことは確かだ。

 まだこのコラムを書き始める前、ゴルフやホテルに詳しいという半ば本当で、半ば間違った印象を自ら世間に広めるため、私はその肩書きを多用していたのだ。

 だが、やはりその種の浅薄な行動は慎むべきなのだ。このコラムを通じて「泥棒ゴルフ」などの過去がバレてしまった現在、私にそんな肩書きが通用しないのは周知の事実となった。

 それでも、私はラグジュアリーな姿勢を守るため、きょうもこの「レクサス晴海」にやってきた。そう、たまには見栄を張りたい年頃(42歳)なのだ。

 私は、ここでカプチーノを啜りながら、ゴルフ用品を眺め、ゴルフ雑誌に手を伸ばし、明日のゴルフに備えている。

 ふと、見るとラウンジテーブルの真ん中に見慣れない雑誌が置いてあるではないか。

「ゴルダイジェスト・トラベラー」

 高品質の表紙には、次のような惹句が踊っている。

〈イタリア サルディニア島で楽園ゴルフ〉

〈マレーシアでロングスティを愉しむ〉

〈世界最高峰 ヒマラヤ山麓でプレーbyネパール〉

 羨ましい。なんという贅沢。なんというラグジュアリー。世界のゴルフコースが美しい写真とともに紹介されている。ゴルフダイジェスト社の雑誌をチェックしている私としては痛恨のミスだ。いったい誰が取材しているのだろうか。

奥付を確認する。そこに驚きの名前を発見した。

「〈editor in chief/ 平尾誠〉」

私は思わず声を挙げた漏らした。

「――聞いていない!」

 平尾編集長よ、ラグジュアリージャーナリストの私になぜ一切連絡がないのだ。どう考えてもおかしいではないか。本人に問い質してみた。

「そうそう、創刊したんだよ」

 ラグジュアリーな気持ちは一瞬で吹き飛んだ。彼は私の求めるものを理解していない。政治ではなく、私はラグジュアリーなゴルフを求めている。なんという悲劇だろう。

 ちょうどその時、レクサスのメンテナンススタッフがやってきて、こう告げる。

「点検が終了しました。磨耗が少し確認できたので、前後のタイヤを入れ替えておきました」

 私の心だけではなく、クルマのタイヤまでも磨り減っていたのか。私はやさぐれながら、「レクサス晴海」を後にした。

 いまやクルマでゴルフ場に行く元少年ゴルファーの私だが、当時は、そんな贅沢な日々が来るとは夢にも思わなかった。

 なにしろゴルフ道具すら満足に買えなかったのだ。

 ゴルフショップに行っても、気になるクラブを眺め、買いもしないパターで繰り返し試打するのが関の山だった。


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