上杉隆 連載コラム 「前略、芝の上から」

2010.09.14


【第22回】
ゴルフで更生!できるかな?

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(前回のあらすじ)
1980年代、政治の世界に深く食い込む気鋭のジャーナリスト・上杉隆はゴルフに夢中なひとりの高校生だった。運動神経抜群で、ゴルフ場で研修生として働く「大ちゃん」、ゴルフに関する知識なら誰にも負けない「鈴っちゃん」、もっとも都会的な雰囲気を持つ「ヨデブ」そして「イワオ」に「エテパン」……。大都会・新宿に暮らす5人の高校生を中心にした、これは“青春ゴルフノンフィクション”だ――。

ルール違反を静かに受け入れた
ジャスティン・ジョンソン

 2010年の全米プロは、プレーオフの末、ドイツ人プロのマーティン・ケイマーが接戦を制した。

 4日間、驚くべき数のバンカーの点在する難関コース、ウィスリング・ストレイツでは、文字通り数々のドラマがあった。その中でもなんといっても象徴的なのは、ジャスティン・ジョンソンの「ルール違反」であろう。

 ハザード(バンカー)内ではクラブを接触させてはいけない。当然であるこのルールに対してジャスティン・ジョンソンはローカルルールを自己解釈し、結果、ツーストロークを失った。そのためにプレーオフに進出できなかった。

 ジョンソンの悲劇は彼一人のものではない。それは新しいスターの登場を心待ちにしていた全米のゴルフ・ファンたちも失望させた。

 とはいえ、ゴルフの歴史ではこの種の悲劇は珍しくない。1925年の全英オープン、誰も見ていないラフからのショットで、アドレス後にボールがほんのわずかに動いたとして、自らペナルティを課し、メジャータイトルを逃したボビー・ジョーンズの逸話など、枚挙に暇がない。

 バンカー内で砂や石に触れたら、それはすなわちライの改善にあたり、ペナルティを課せられるのは当然なのだ。だから、ジョンソンはそれを静かに受け入れた。

 だが、この種の美しい精神は年々失われているように感じる。賞金が高額化し、純粋にボビー・ジョーンズの精神が通用するスポーツではなくなっているのだ。

 悲しいことだが、それが今のゴルフ界を取り巻く現実である。

 ルールは毎年のように変更され、競技は徐々に難しくなっている。だが、変わらないものもある。

 ゴルフの根本精神、今でいえばマナーについては、それほど大きな変化は認められない。

 ドイツ出身のプロといえば、すぐに浮かぶのが“レッドバロン”ことベルンハルト・ランガーだ。

 赤いウェアと冷静沈着なプレイスタイルでマスターズ2勝という金字塔を打ち立てて、一躍有名になったが、もうひとつ彼を有名にしたものがある。

 それは、スロープレー、そう、彼はツアーでも有名なスロープレーヤーである。

 仮にジャック・ニクラスとランガーが同じ組になったらテレビ局は頭を抱えることになるであろう。

 アドレスからボールを打つまでコマーシャル3本分を使うニクラスの映像を流した後、今度は、アドレスに入るまでにコマーシャル4本分の時間を浪費するランガーの登場を待たなければならない。

 テレビ局はこの二人を中継することでスポンサーを失う危険性に晒される。同伴競技者もシビれてしまう。スロープレーは誰もが犯すマナー違反なのである。


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