上杉隆 連載コラム 「前略、芝の上から」

2010.08.03


【第17回】
夏の日の1984――少年キャディ「ウエスギ」登場!

上杉隆 連載コラム
(前回のあらすじ)
永田町を震撼させる気鋭のジャーナリスト・上杉隆。彼は、1980年代、ひとりのゴルフが大好きな高校生ゴルファーだった。高校に行かず研修生となった「大ちゃん」、理論派の「鈴っちゃん」さらには「イワオ」「ヨデブ」「エテパン」といった中学時代からのゴルフ仲間たちと織り成す、これは「青春ゴルフノンフィクション」だ!

高1の夏、運動神経抜群の「大ちゃん」が
キャディのバイトに誘ってくれた。

 夏休みの到来である。

 浴衣に花火、TUBEに山下達郎。日焼けにはシーブリーズ、蚊には蚊取り線香。かき氷はメロンシロップ、朝食はスイカ、おやつもスイカ、夜食もスイカ――。

 さぁ、大人も、子供も、美女も、野獣も、笑顔の眩しい夏休みがやってきた。

 だが、多くのサラリーマンゴルファーにとって、夏休みは夏休みであって、夏休みではない。

 海に、山に、プールに、遊園地にと、移動する度にファミリーの笑顔は増していく。レストランでは、普段はおとなしい妻が、ここぞとばかりに、最高級メニューを指差しまくる。ハシャギまわる子供たちは、せっかく購入したばかりのクラシック音楽に予期せぬボーカルを勝手に入れてくれる。

 そこに安息の日々はない。あるのは、家族の笑顔と同時に得た、慣れない長距離移動の末の「疲労」と、キャンセルしたゴルフ仲間たちからの楽しげなラウンド中の「メール」である。

 残念ながら、そうした「メール」は筆者からのものであることが多いという。気づかずに「メール」を送りつけた少年時代のゴルフ仲間には、この場を借りてお詫びしたい。

 以降は、写真、および動画付のものに限定して送信するので、どうかご容赦いただきたいものだ。

 高校時代、夏休みといえば、私はつねに「大ちゃん」とともにあった。

 中学を卒業してすぐに群馬県のルーデンスCCにひとりで旅立った「大ちゃん」は、私たち少年ゴルファーの中で、もっとも早くゴルフの道を歩むことを決めた人物であった。

 中学時代、「大ちゃん」は圧倒的に運動神経で優れていた。野球をやらせれば、新宿代表としてシニアリーグに選抜され、チームレギュラーとして海外遠征も果たした。サッカーをやらせれば、抜群の動きでフォワードからキーパーのすべてのポジションをこなした。その勇敢なプレーは、時にサッカー部員からも賞賛された。

 ゴール前にボールが上がると、そこは「大ちゃん」の独占的空間に変わった。

 大ちゃんはゴールを背にして飛び上がる。見事なオーバーヘッドキックでボールを捉えると、ゴールネットを揺らしたものだった。それと同時に、大ちゃんの身体も地面に叩きつけられ、ドーンという音を周囲に響かせたものだ。そう、当時のサッカー場や校庭は大抵、土のグラウンドであり、硬かったのだった。

 大ちゃんのオーバーヘッドキックは授業中にもみられた。教室の一番後ろの席、壁際、大抵そこが「大ちゃん」の指定席だった。

 早朝から夜まで体を動かしている大ちゃんにとって、中学の授業は身体を休ませるために、重要かつ不可欠な時間であった。椅子の後脚で器用にバランスを取りながらリクライニングさせる。そうやって身体を鍛えながら、頭は鍛えない。それが大ちゃんの一貫した勉学姿勢であった。

 だが、身体のみならず、脳までリラックスさせすぎる大ちゃんは、ときに不幸に見舞われた。

授業中、教室の後ろでドーンという音が響く。黒板にチョークで何かを書いていた国語の教師が振り返る。生徒もみな振り返る。理由はわかっている。だが、念のため、大ちゃんの姿を探す。

 そして、机の下で夢のオーバーヘッドキックをしたばかりの大ちゃんが、頭を抱えているのを見つけるのだ。

 その大ちゃんがルーデンスCCに就職した最初の夏から、私の夏休みは「大ちゃん」とともにあった。

 高校に通わず、コース専属の少年キャディになった大ちゃんは、当時16歳であった。そして、毎年夏休みに現れるその友人の「高校生キャディ」も、同じく16歳であった。

 当時から、ルーデンスCCは若いゴルファーを育てようと多くの若者を集めていた。プロゴルファーになる夢をみて、家族から離れ、群馬の山奥に単身、集まってくるゴルフ少年たち――。私は夏休みの期間だけ、その仲間入りを果たしたのだった。

 きっかけは高校一年生の夏、ゴルフの練習もできずに半ば腐っている私を見かねて、大ちゃんが、夏の高原でのバイトに誘ってくれたのだ。

 夕方、国鉄の高崎線・本庄駅からバスに乗って、ルーデンスCCに向かう。山の稜線に夕陽が隠れ、薄暗くなったクラブハウスに大ちゃんが待っていた。

「なんでも遠慮せずに言ってくれよー。リラックスできるよう、先輩たちにも頼んでおいたから」

 さすがリラックスの帝王である。早速、ゴルフ場の寮では、簡単な「歓迎会」が開かれた。だが、明日からのキャディ業務の説明を受けながら、少しもリラックスできない。

 なにしろ、キャディと言っても右も左もわからないコースである。説明はこの日の夜だけ。研修もない。あとはキャディ控え室に行けばベテランの女性キャディたちが教えてくれるから、なんとかなるという。


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