上杉隆 連載コラム 「前略、芝の上から」

2010.07.27


上杉隆 連載コラム

「ヨデブ」のシボレー・カマロで、
女子高生を誘った湘南デート。

 ある日、その景色を見ながらヨデブと私は同じことを思いついた。何しろ年頃である。この素晴らしい景色を、男だけでみることほど無粋なことはない。そうだ、女の子をデートに誘おう。計画は早速、実行に移された。

 翌日、高校のクラスの女の子をデートに誘う。相手は二人。湘南の海、外車でドライブ――。渋谷の女子高生が誘いに乗らない理由はない。

 デートの日の朝、ヨデブは自分のクルマであるシボレー・カマロでまず私を拾った。いつものようにサザンを聴きながら、待ち合わせ場所の渋谷に向かう。そこで着飾った二人の女の子をピックアップすると、黒いカマロは、一路、湘南を目指して横浜横須賀道路を南下した。

 逗子デニの駐車場にクルマを停めると、4人の高校生は国道沿いを歩き始めた。楽しいデートになりそうだった。なにより、女の子たちはクルマの中でもずっと笑っている。とくに、私がトランクからミズノのサンドウェッジを、ヨデブが自慢のマグレガーの8番アイアン、ピッチング、そしてパターを取り出した瞬間、彼女たちの笑いは青空を突き抜けるように高くなったものだった。

 だが、ふたりの女子高生が、まったく別の意味で爆笑しているのだということに気づくほど、私たちはまだ大人ではなかった。いや、そんなことも気にならないほど、「ぺブルビーチ」を再訪したことにヨデブと私は興奮していたのだ。

 その日、ヨデブと私のマッチは熾烈を極めた。なにしろ若く美しいギャラリーが帯同しているのだ。燃えないはずがない。

 昼下がり、二人の熱い戦いはまだ続いていた。だが、私たちはどうやら熱中しすぎたようだった。

 戦いの最後、擦り切れた糸巻きのボールを、紺碧に輝く海へと打ち放った。恍惚とした表情を浮かべる私とヨデブ、満足そうにギャラリーの方を振り返る。彼女たちもきっと、我々の雄姿に惚れ惚れとしているに違いない――。

 しかし、そこにギャラリーの姿はなかった。ずいぶん前に彼女たちの姿が消えていたことに気づかないほど、私たちは「ぺブルビーチ」でのマッチに集中していたのだ。

 途中で姿を消した二人の女子高生を見つけて、夕陽の砂浜を歩いた。美しい景色と可愛いガールフレンド、ヨデブと私はすっかり満足し切っていた。

 私たち4人は再びデニーズの駐車場に歩き出す。楽しかった。男子高校生の方は国道沿いの狭い歩道を歩きながら、今しがたのゴルフにおける戦いについて話していた。

 こんなに素晴らしい時を過ごした女子高生の二人も、きっと満足していることだろう。私たちはそこに何の疑いも持っていなかった。

 しかし、黒いカマロに乗り込んだ後、後部座席の二人はやけに静かだった。なぜだろう。そう、自分勝手なゴルフ少年はまだ女心を知るには若すぎたのだ。

 思えば、シボレー・カマロのトランクからゴルフクラブを取り出した瞬間、彼女たちの囁いた「あんたたち、海まで来ていったい何をするつもりなの」という言葉に、嘲笑が含まれていることを私たちは気づかなかったのだった。

 その後、彼女たちが「ヨデブ」のシボレー・カマロに乗ることは二度となかった。
[ 第16回 終わり ]


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