上杉隆 連載コラム 「前略、芝の上から」

2010.07.05


【第13回】
明日へ向かって飛べ、ターフ!

上杉隆 連載コラム
(前回のあらすじ)
時はバブル前夜の1980年代、ジャーナリスト・上杉隆と「大ちゃん」「ヨデブ」「イワオ」「エテパン」「鈴っちゃん」といった個性的な仲間たちは、大都会・新宿に暮らすゴルフに夢中な高校生だった。ゴルフ部でもない、ゴルフ場のメンバーでなどもちろんないゴルフに飢えた少年たちは、高校入学を期に、練習場でのアルバイトを開始した――。

城達也氏がナレーションする
深夜のゴルフ番組があった。

 中学・高校時代を通じて欠かさず観ていたテレビ番組が3つあった。

 多感な時期である。恋愛ドラマのタイトルを挙げたいところだが、残念ながら嘘はつけない。そもそも、ドラマが放映されているような午後8時や9時にはまだ家に帰ってきていなかった。

 よって、私の視聴している番組に共通しているのは深夜枠ということになる。そのためか、ジャンルは違うもののマイナーな番組が多かった。おそらく視聴率も取れなかったのだろう、さらにそれらの番組は一週間に一度、しかも大抵30分程度の放映にすぎなかったという点でも共通していた。

 その一つ、「ベストヒットUSA」は、小林克也氏の司会でホットな洋楽情報を届けてくれる唯一のテレビ番組であった。

 その頃、洋楽はメジャーとは言えなかった。たとえば、ヒットチャート「ラジオ&レコーズ」で、ロックバンド「ジャーニー」のナンバー「オープン・アームス」が10週連続の一位を記録しても、校内では話題にすらならなかった。

 むしろ、西城秀樹氏の歌う日本語版「Y・M・C・A」が「ザ・ベストテン」で、歴代最高の9999点を獲得したことの方が少年たちの間で圧倒的に話題になっていたものだった。そもそもプリンスやマドンナのPVは「大人すぎる」ということで、中・高生が見るような時刻に放映されることもなかった。

 二つ目の番組はいまや、ネコも杓子もの感のあるサッカー番組だった。だがそのサッカーもまた、当時はマイナースポーツの典型だった。

 金子勝彦氏の司会で伝えられる「三菱ダイヤモンドサッカー」は世界のサッカーシーンをそのまま放送する唯一の番組だった。ただし、その番組を見るにはかなりの根気が必要だった。

 前半が終わると、金子氏が決まってこう語ったものである。

「それでは、後半戦の模様は、来週、お伝えいたします――」

 つまり、当時の日本のサッカー少年たちはずいぶんと長いハーフタイムを待たなければならなかったのだ。

 さらにそれよりもマイナーで気の遠くなるような番組を私は視聴していた。それが3つ目の番組、「ビッグイベントゴルフ」であった。

 深夜、城達也氏のナレーションで放映されるその番組は、なにしろ静かな番組だった。淡々とUSPGAツアーの様子を流すのみ、絶叫も無ければ、感動もない。城達也氏の声が、夜の黙(しじま)に騒がしくない程度に響くだけである。

「トム・カイト、セカンドショット……、乗りました」

「へール・アーウィン、バーディパット……、決めました。これで7アンダーパー、2位に並びました」

 こんな感じである。しかも、メジャー大会の放映はない。カナディアンオープンやテキサスオープンなどメジャーでない大会をひたすら流す。なにしろビング・クロスビー・プロ・アマがもっとも華やかな大会であったくらいだ。

 そして、その番組の特徴である素敵なスローさは、城氏の話し方のみならず、彼の話す内容にも表れている。

「今夜はテキサスオープン3日目の様子をお伝えしました。来週はいよいよ最終日。みなさん、おやすみなさい」

 衛星放送も、インターネットもない時代、私たちが、海外のゴルファーを直接見ることのできる唯一の番組がこの「ビッグイベントゴルフ」であった。

「観た?」

「うん」

 月曜日、落合ゴルフの待合室での私たちの話題は、いつも前日のこの番組のことだった。

「(トム)ワトソンとか、(トム)カイトのあの逆Cフィニッシュ、あれがボールを高く上げる秘訣だよ」

 こう断言するイワオに誰かが訊ねる。

「なんで逆Cにするとボールが上がるんだろ。打った後じゃん」

 それに対してイワオも負けない。

「理論は判らないけど、でも、身体を反れば反るほど高く上がるんだ」

 そういいながら、イワオはスウィングの真似をする。そしてその夜、イワオとヨデブの頭の中でのスウィングは「トム・カイト」になり、エテパンと私のそれは「トム・ワトソン」になっていくのだった。

 寒い冬、私たちは落合ゴルフ練習場のストーブの前で、最後のお客さんがボールを打ち終わるのを待ちながら、いつもこんな話ばかりをしていた。

 就業後の実際の練習まで、よく反射する待合室の安いガラスの前で、交互に素振りをしながら、お互いのスウィングチェックをしたものだった。


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