上杉隆 連載コラム 「前略、芝の上から」

2010.06.29


上杉隆 連載コラム

夢にまでみたジュニア大会。しかし、
出場への道のりは驚くほど遠かった……。

 関東ジュニア予選に申し込んだ時のことである。参加用紙には次のような一文があった。

〈参加要件として、高校のゴルフ部に所属、もしくはゴルフ場および練習場の推薦が必要〉

 その一文は私たちの希望を奪うに十分であった。お互い顔を見合わせ、さて、どうするものかと途方に暮れた。そしていつもそうであるように、大人たちとの「交渉係」である私が連盟に電話をすることになったのだ。

「ゴルフ部に入るか、練習場、もしくはコースの推薦を取ってから参加しなさい。書いてある通り。例外は認めらない」

 受話器からはつれない言葉しか聞こえない。それでも、私は、東京のど真ん中である新宿に住み、そもそも高校にゴルフ部がないこと、また、家族でゴルフをする者もおらず、よってゴルフ場などから推薦をもらうことも不可能なこと、それでもゴルフの練習だけはこの3年間欠かさず行ってきたことなどを説明し、どうにか出場できるように懇願した。

 しかし、結果はつれなかった。つまり、カネが無ければ、ゴルフはするなということなのである。

 私からの報告を聞いて、「ヨデブ」「エテパン」「鈴っちゃん」は、明らかに落胆の色を隠さなかった。そこで私は、連盟宛に手紙を書くことにしたのだ。

〈私は真剣にゴルフをやっている者です。確かにゴルフ部には所属していませんし、ハンディキャップも持っていません。それでも練習は欠かしたことがなく、例年の予選カットラインくらいのスコアではラウンドできます。参加要件はないと電話で言われましたが、それならゴルフ部のない高校生は永久に大会に出られないことになってしまいます。なんとか個人の資格で参加を認めてもらえないでしょうか 都立広尾高校一年G組 上杉隆〉

 もう、四半世紀以上も前のことである。詳細な文面は忘れたが、こんな内容だったと記憶している。だが、連盟からはなんの返答もなかった。つまり、黙殺されたのである。

 結局、一年目、ゴルフ部のある「イワオ」以外、私たちは誰ひとりジュニア大会に出場することはできなかった。

 2年生になると、「鈴っちゃん」を除く私たち4人は、ゴルフ練習場での仕事を探し始めた。中学生と違って、高校生になるとボール拾いのアルバイトができる。そこで就業後に練習させてもらおうという魂胆だったのである。

 日本テレビゴルフガーデンでは、大学生以外のアルバイトを雇わないと言われ、TBSゴルフ練習場も、高校生アルバイトはいらない、さらにボールを打たせることはできない、と拒否された。

 そこで、自宅から近くはなかったものの、高校生を同時に4人も雇ってくれるということで、「落合ゴルフ」でアルバイトをすることが決まったのだ。

 そこでの練習風景については、次回以降に譲るとして、ここでのアルバイトの結果として、「ヨデブ」と「エテパン」と私の3人は、高校2年生の夏、「落合ゴルフ」所属の加藤プロの推薦によって、やっとジュニア大会に出場することができたのである。

 大会の当日まで、私たちの頭の中はゴルフ一色であった。

 朝起きれば、自宅前で各々が素振りをする。そして電車に乗って高校に向かい、授業が終われば、「落合ゴルフ」に集合だ。営業時間が終わるまでは、鏡の前や空いた座席で素振りを繰り返す。お客さんが少なく、邪魔にならなければ営業時間中にボールを打たせてもらうこともあった。

 すべてのお客さんが帰ると「トンボ」でボールをかき集め、かごに入れて洗浄し、明日の営業のために座席の備品を整える。その後、照明を落とすまで、私たちの練習時間が訪れる。

 ひたすらボールを打ち、ときに加藤プロの機嫌が良ければ、アドバイスをもらう。さらに帰路、途中の道路上でいきなりお互いのスウィングをチェックすることもあった。

 そうやって、私たち貧乏ジュニアゴルファーは大会に備えたのだ。

 練習ラウンドに参加しているジュニアゴルファーの多くは親同伴であった。自家用車で送迎されるライバルたちをみて、エテパンが私に愚痴る。

「ゴルフって、やっぱり金持ちのスポーツなんだよな」

 その後、エテパンはゴルフを辞めることになった。大学進学のために受験勉強の必要に迫られたということもあった。だが、それ以外に、当時の日本のゴルフ界がジュニアゴルファーに冷たく、ビジネスばかりを優先させることに嫌気が差した、という理由もあったという。

 その種の障害は、私たち少年ゴルファーにとって日常の茶飯事となる。だが、私に関して言えば、ゴルフへの熱は醒めない。むしろますます憧れが強まるのだった。
[ 第12回 終わり ]


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