上杉隆 連載コラム 「前略、芝の上から」

2010.06.15


上杉隆

PTAから学校に通報された
少年ゴルファーたちを救ったのは……。

 コースは、毎日のように改造され、そして新たに考えられていった。

 すでに少なくないティグラウンドが設置され、18ホール以上のホールが考案されていたが、ある日、イワオが練習場用の人工芝マットを持ってきたことで、さらにサンコーCCは隆盛を極めるようになった。それまでティグラウンドには馴染まなかったアスファルトの遊歩道や、造成中の砂利の上からでも、ティショットが打てるようになったのだ。

 サンコーCCでは、みんな思い思いのショットで「ブラウン」を攻めたものだった。

 セントアンドリュース・オールドコースの17番ロードホールで、トム・ワトソンがグリーン後ろの壁に当てるリカバリーショットを試みたことを知ると、私たちもまた、花壇のレンガの壁にわざと当てて、跳ね返すアプローチショットに挑戦したものだ。また、故意に遊歩道にボールを落とし、その反発を使ってブラウンに寄せるという高等技術も繰り返し試した。

 しかし、サンコーCCにおいて最難関の技術が要求されるショットといえば、なんといっても、おそらく世界中でこのゴルフコースにしかない名物バンカーであった。

 ブラウン脇10メートルには、工事中に出た土砂を集めて、高く盛っているエリアがあった。土砂といっても、かなり柔らかい赤土で、ミスショットでそこに打ち込むと、きわめて厄介なことになった。

 通常のゴルフ場のバンカーとは逆に、盛り上がっていることから、私たちはそのハザードを「逆バンカー」と呼んだ。

 アンプレヤブルは敗北の証だと信じていた私たちは、どんな場所にボールが飛んでも、あるがままの状態でプレーを続けることを追求した。

 だが、逆バンカーの方向にボールが飛んでいった途端、少年たちの誰もがパーを取ることは当然に、優勝の二文字が遠ざかるのを悟ったものだった。

 一度ボールが逆バンカーに潜れば、それでお仕舞いである。完璧なエクスプロージョンショットをもってしても、逆バンカーから一回で脱出することは不可能に近かった。誰もが見ている目の前でボールが落ちたのに、ロストボールになってしまうほど、逆バンカーは難しかった。

 だが、それでも私たちは満足だった。毎朝、授業の始まる直前、5分前までトーナメントを続け、次に中学校の正門に向かって走っていく。門を潜ると、正面玄関の下駄箱横のドアをノックする。そこで用務員のおじさんにゴルフクラブを預かってもらう。

 もちろんゴルフクラブを学校に持ってくるのは禁じられていたが、なぜか用務員さんは私たち少年ゴルファーに寛大で、秘かに「クラブハウス」として用務員室を開放してくれていたのだ。

 ところが、ある日のこと、ゴルフをしている危険な生徒がいるという噂が――といっても確実な情報だが――PTAを通じて、学校に伝わった。

 いよいよ、大会終了の時季がやってきたようだった。ゴルフクラブを隠す場所がなくなれば、トーナメントの開催そのものが難しい。まずいことに学校側の調査の過程で、用務員のおじさんにも「取り調べ」が行われたという情報が流れてきた。私たちはいよいよ観念した。

 ところが、いつまで経っても一向に教師から呼び出される気配がない。不思議に思いながらも、早朝のゴルフを続けていると、裏情報に詳しい暴走族のコバが真相をつかんできた。

「あの用務員のおじさん、いるじゃん。あのおじさん、イコマ(先生)とか、トノコ(先生)とかから、かなり根掘り葉掘り聞かれたらしいんだって。でもよ、『このゴルフクラブは私のもので、休憩中に素振りをしているんです。生徒のものではありません』と答えて、押し通したらしいんだよ」

 私たちは、その日の放課後、揃って用務員室を訪れ、お礼を述べた。だが、用務員のおじさんは、何も語らず、いつものようにニコニコ笑っているだけだった。

[ 第10話 終わり ]


前ページへ

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

運営会社 | プライバシーポリシー