上杉隆 連載コラム 「前略、芝の上から」

2011.09.30


【最終回】
さらば、あの日の少年ゴルファーたち

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(前回のあらすじ)
1980年代、上杉隆はゴルフに夢中な少年時代を過ごしていた。クラブもない、お金もない、ましてや大人や同級生の理解もないなかで、ヨデブ、鈴っちゃん、大ちゃん、イワオ、エテパンといった仲間たちと、手作りのコースで草ゴルフを楽しむ。人生で一度きりの輝かしい青春を、ゴルフに捧げた少年たちの物語、ついに完結!

赤い土の砂漠の中を
クルマでひた走る

  いま、私はアフリカ大陸にいる。大地は渇いている。砂漠から運ばれてきた赤い土が低い空を覆っている。その上は青空だ。いや、紺碧が天を貫いている空の色だ。

 太陽が眩しい。視界に入る風景に日陰を探しながら、私はクルマでの旅を続けている。そして、ひどいアラブ訛りのフランス語を車内で聴かされ続けている。まったくもってたまったものではない。なにしろ、ひどいフランス語なのだ。少しも意味を理解できない。いや、違った。よく考えてみると、私自身がフランス語を知らなかった。

 モロッコ人の運転手兼ガイドは、英語を知らないという。そう、この土地ではアラビア語とフランス語、あるいはスペイン語か、イタリア語くらいしか通用しない。

 まったく困ったものだ。これではゴルフ場を見つけることも難しいかもしれない。

 街から抜けて、もうひたすら一車線の土埃が舞う道を走っている。視界の左右は砂漠である。前も砂漠、後ろも砂漠――。

 ところどころに、ラクダとラクダ飼いの少年が道路わきで休息しているのが私の視界の中を流れ去る。

 思わず、久保田早紀の「異邦人」を口ずさみながら、空と大地が触れ合う彼方を目指している。果たして、本当にこんな土地にゴルフ場はあるのだろうか?

 ゴルファーは偉大だ。砂漠のオアシスの中に、いやオアシスを拡大してでも、ゴルフ場を造ろうとする。現に私の目の前にゴルフ場が現れた。

 コースの豊かな池に鳥たちが集まっている。その横の緑のフェアウェイをカートに乗ったゴルファーたちがすり抜けていく。ここはアフリカ、サハラ砂漠の端なのだ。

 私は迷わずクラブハウスを抜けると、クラブセットとシューズをレンタルした。ボールとティはキャディにチップを渡して、拾いに行ってもらった。さぁ、これからアフリカ大陸で初めてのゴルフ体験だ。バンカーも池も恐ろしくない。なにしろ、周りはすべてバンカーなのだ。

 ティショットはまずまずだった。恐ろしく堅い草のラフに飛び込んだが、その堅さゆえにボールはティアップしたかのように浮いている。

「セ・ウー・ル・グリーン?」(グリーンはどこ?)

 ベルベル人のキャディに尋ねる。指差した方向には茶色い土のサークルしか見当たらない。仕方なしにそこに向かって打った。7番アイアンでピン横2メートル。会心のショットだ。

 グリーンに向かって歩き出す。なぞが氷解した。そこにグリーンはなかったのだ。代わりに横たわっていたのが、茶色い土をむき出しにした"ブラウン"であった。

 "ブラウン"ならば任せておけ。ひたすらストレートに強く打つべし。

 そう、箱根山カントリークラブで鍛えた少年時代、ブラウンでのパッティングはお手の物だった。あのころ、僕たち少年ゴルファーはその技術を体得していたのだった。

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