名手・達人の言葉

2009.09.16

欲をかくほど前かがみになるもんや。そういう時は高下駄を履いたつもりでボールに向かえばいいんや。――戸田藤一郎
 

 前回に続いて、鬼才と呼ばれたトイチこと戸田藤一郎の登場である。

 ゴルフは逆説のゲームでもある。OBや池を避けたいと思えば、不思議とそちらにボールは向かうものだ。同じように、このパットを入れたい、このアプローチを寄せたい、ドライバーショットで大きく飛ばしたいと思うと、人は前かがみになってくる。

 背を伸ばせば、パットでのラインは高みからよく見えるし、アプローチでもヘッドは動かしやすいだろうし、ドライバーではスウィング円弧も大きくなるだろうと、理屈では理解しても、実際は人は逆のことをやってしまう。ゴルフの不可思議である。

 トイチはこれらのことは、ひとえに過ぎた“欲”のゆえだと喝破した。そして表題の「言葉」を紡いだのである。

 高下駄は現在の若い世代は知らないだろうが、昭和30年代までは一般に家庭に普及していた。特に武道をやる者にとっては、鍛錬も兼ねた履物であった。

 ボールに向かう時、高下駄でも履いたつもりになると自然に背は伸びて、筋肉も柔らかく使えるとトイチは諭したのである。それは165センチと小柄であった自分に言い聞かせる「言葉」であったかもしれない。

 マスターズなど米国遠征にも出かけ、雲突く大男の中にまじって闘った教訓にも聞こえるのだ。

 

■戸田藤一郎(1914~84年)

10歳から甲南GCのキャデイとして働きながら、見よう見まねでゴルフを覚える。廣野GCが創立されると同時に移籍。18歳でプロの資格を得て、19歳で初優勝を飾る。35年には全米オープンに出場。W・ヘーゲンの回顧録に、「日本からきた6人のなかで素質抜群、外国勢のなかでも最極上」と記されている。39年には日本オープン、日本プロ、関西オープン、関西プロを獲り、年間グランドスラムを達成。圧巻は63年の日本オープンで25年ぶりに2回目の優勝を飾ったこと。71年には57歳で関西オープン7回目の優勝を果たすなど、38年の長きにわたって第一線にいた。

 

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