僕のマグノリアレーン

2012.05.24

【第68回】
番手を変えて景色を変える。

僕のマグノリアレーン

「マスターズを目指す!」そう宣言した元ジャーナリスト・上杉隆とそれをサポートするプロゴルファー・中井学のゴルフレッスンドキュメント、「僕マグ」。ある日のこと、事件は起きる。なんと、上杉隆がハーフ「35」というとんでもないスコアを叩き出したのだ!

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オーガスタが近づいてきた!?
上杉が驚異のスコアをマーク!

中井 上杉さん、ハーフ「35」おめでとうございます!

上杉 あー残念。最終ホールバーディだったら28年ぶりのハーフ2アンダーだったのに……。

中井 素直に喜んだらいいじゃないですか。なにしろコースは千葉県屈指の難コース、オークビレッヂGC。レギュラーティからとはいえ、快挙としか言いようがありません。さて、今回連載で取り上げたいのは、上杉さんのコースマネジメントの変化です。実は今、けっこう感動しているんですよ、僕は。今日の上杉さんのマネジメントは、いつもと明らかに違いましたから。

上杉 まあ、やはり「35を出す男は違う」ということですね。

中井 言いたかないですけど、その通りです。というわけで、上杉さんにマネジメントの重要性を再確認してもらう意味でも、読者の方々に参考にしていただく意味でも、今回の「僕マグ」では、上杉さんが「35」を出したラウンドを振り返ってみたいと思います。実は、ハーフ「35」を出すには、ターニングポイントが3つありました。

上杉 ターニングポイント、すなわち折り返し地点。ということは、レストランと、茶店?

中井 まるっきり違います。まずは上がりホール、パーで上がれば「35」という9番ホール。「クヌート王」という愛称で呼ばれる、グリーン周りが池に囲まれた、距離はないけれど難しいパー4の、セカンド地点です。

上杉 ただでさえ難しいホールなのに、フロントエッジから5ヤードにピンが切られていたんですよ、あのホール。

中井 ピンまで138ヤードと距離はないものの、130ヤード以上打たないと池につかまるという平日ならではの異常なまでの手前ピン。ボールのライはつま先上がりのセミラフで、軽いアゲンストでした。

上杉 最初、平均飛距離140ヤードの8番アイアンを持ったんですよ。そうしたら、どこからともなく「アゲンストだし、受けグリーン。150ヤードくらい打つのが正解だな~」という声が聞こえてきたんですよ。アーサー王伝説をモチーフに設計されたコースなので、おそらく妖精かなんかの囁きだと思うのですが……。

中井 それは、妖精ではなく僕の声です。どこの世界に40歳・不惑の屈強な男性の妖精がいるんですか。まあ、本当は同伴競技者がアドバイスしてはいけませんが、そこは大目に見てください。

上杉 ともかく、それを聞いて7番に持ち替え、10メートルにオン。バーディパットを10センチに寄せて、パーで上がりました。うーん、我ながら素晴らしい。

中井 あのジャッジは本当に素晴らしかったですね。

上杉 万が一にも池に入れてはいけない状況でしたからね。しかも、7番を持ったら不思議と気持ちがラクになったんですよ。

中井 読者の皆様、ここがもっとも重要な点です。アマチュアゴルファーの99.9%は、番手による違いを「飛距離」でしかとらえていません。違うんです。番手によってもっとも大きく変化するのは「視野」なんです、ホントは。

上杉 ん? どういうこと?

中井 言葉で説明するのが難しいのですが、頑張ります。上杉さんの8番アイアンは、ナイスショットで140ヤード。当たり損ねで120ヤード。滅多に出ない極端なミスは省いて考えると、大体120ヤードから140ヤード地点を結んだ、直径20ヤードの円の中にボールが飛ぶクラブなわけです。その円のどこに落ちるかは、これはもう神のみぞ知る領域。ナイスショットが出ることもあれば、ミスすることもあります。それがゴルフです。

上杉 うん、そりゃそうです。

中井 対して、7番アイアンは大体飛距離135~155ヤード地点を結んだ、同じ直径20ヤードの円の中にボールが落下するクラブ。このふたつの円を見比べて欲しいのです。8番アイアンの円の一番上にはピンがあります。故に、ナイスショットすればベタピン。しかし、円の下半分、130ヤードから120ヤードの部分は、すべて池なわけです。乱暴な言い方をすれば、確率50%で池ということです。

上杉 あ、そうか。7番アイアンならミスしても池は超えるし、ナイスショットしてもグリーンに乗るわけだ。

中井 その通り。しかし! しかし、しかし!

上杉 どうしたんですか、突然興奮して。

中井 ここは声をものすごく大にして言いたいんです。今まで上杉さんは、ナイスショットの飛距離しか考えていなかった。ピンまで約140ヤードなら、ナイスショットで140ヤード飛ぶ、8番アイアン。言い方は悪いですが、そこで思考停止していたんです。

上杉 うーん、言われてみればおっしゃる通り。

番手を持ち替えることで
飛距離だけでなく「視野」が変わる!

名称未設定-1
番手を選択するときは、ナイスショットの飛距離だけでなくミスショットを想定した上で決断することが重要だ

中井 ここで僕が言いたいのは、前にも述べたように飛距離の話ではなく「視野の変化」の重要性です。8番アイアンを持ったとき、上杉さんの頭の中には「ピン」と「池」しかなかったはずです。

上杉 池を絶対に越してピンにつけ、2パット、あわよくば1パットでホールアウトし、2アンダーを実現させる。たしかにそこに意識が集中していました。

中井 しかし、7番を持った瞬間、その視野は一変したはずなんです。まず、視野の中から池がほぼ、消える。つまり、ピンの「手前」が消えて、代わりにピンの「奥」が見えてきます。受けグリーンなので下りのパットとなりますが、2パットなら問題はない。しかも万が一飛び過ぎてもグリーン奥には一切のハザードがない。同じホールの同じ地点に立ちながら、心の中の風景がまるっきり別物になるんです。

上杉 ああ、それで気持ちがなんだかラクになったのか。てっきり妖精が私を祝福しているんだと思いました。

中井 アーサー王伝説をモチーフにした気品あふれるコースとはいえ、オークビレッヂの所在地は英国ではなく千葉県市原市ですからね。妖精はいません、たぶん。

上杉 え、そうなの?

中井 妖精はともかく、ほとんどのアマチュアは、それでも7番を持たない、持てないんです。どうしても、ナイスショットの距離とピンまでの距離をイコールで結びつける発想から逃れられない。しかし、上杉さんは土壇場でその発想を捨てることができた。これがなにより素晴らしいんです。

上杉 なにしろ「35」がかかっていましたからね。しかも、同伴競技者に恵まれない中で。

中井 ちょいちょいちょーい!

上杉 冗談です。

中井 了解です。あとひとつ、技術的なポイントも。7番を持ったとき、上杉さんクラブを短く持ちましたよね。あのジャッジもファインプレーです。

上杉 そうなの?

中井 そうです。たぶん、7番だと飛び過ぎると思って短く持ったのでしょうが、短く持っても実は飛距離はほとんど変わりません。むしろかえって飛ぶこともあります。そこが大事なのではなくて、短く持つと「引っかかりにくくなる」。これが大事なのです。引っかけのミスは振り過ぎが原因の場合が多いのですが、単純に、短く持つとマン振りはしませんからね。8番に比べてロフトが立っている分、つかまりにくい7番を、なおかつ短く持った。これによって、「飛距離が足りなくて池」「引っかけて池」という、あの場面でもっとも恐ろしいふたつのミスが消えてなくなっていたんですよ、実は。

上杉 なんだ! じゃあ、あの時点で「35」は確定していたんじゃないですか。早く言ってくれればいいのに。

中井 それでも考えられないチョロとか、5ラウンドに1回も出ないようなシャンクが出るのがゴルフですからね、「確定」なんて言えません。って、夢中になって話していたら文字数がいっぱいになってしまいました。あとのポイントは、また次週。

上杉 読者諸君も、これを読んで「35」を出せるように頑張りたまえ、ははははは。

中井 マネジメントは「謙虚」に変化したのに、「上から目線」は変化なしなんですね……。

 

ついに飛び出したアンダーパー(ハーフだけど)! ちなみに、もうハーフは「40」。オークビレッヂで40・35は凄いです、ホント。というわけで、マネジメントの話は続きます。来週も、目指せ、マスターズ!



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