僕のマグノリアレーン

2011.11.24

【第44回】
「やりたいこと」と「やるべきこと」

僕のマグノリアレーン

「マスターズを目指す!」そう宣言したジャーナリスト・上杉隆と、それをサポートするプロゴルファー・中井学。途方もない夢に向かって走り続けるふたりを追った、ゴルフレッスンドキュメント、「僕マグ」。今週もふたりは、マスターズ目指してラウンドレッスン中ですが……。

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ゴルフ場で"上杉内閣"発足も
ザックリで"任命責任"を問われる!?

上杉 あ~、ザックリだっ。

中井 やっちゃいましたね、上杉さん。グリーンをわずかに外したカラーからのアプローチでザックリ。痛い、痛すぎるミスです。

上杉 言われなくても分かっています。あ~、残念。入ればイーグルだったのに。

中井 読者のみなさんに説明すると、パー5のホールで、横長のグリーンの左側に切られたピンに対し、2オンを狙って惜しくもグリーン右に外してしまった上杉さんが、カラーからサンドウェッジで約20ヤードを打とうとしてザックリした、という状況です。

上杉 失敗したな~。パターで寄せればよかったですね。

中井 どうしてパターではなく、サンドウェッジを使ったんですか?

上杉 ほら、前のホールでサンドウェッジでのアプローチが30センチに寄ったじゃないですか。あの記憶があったから、閣僚人事における論功行賞というか、前回いい仕事したから今回もサンドがいいんじゃないかと……。

中井 ゴルフにおける「論功行賞人事」は絶対にやってはいけません。というか、そもそも論功行賞で人事を決めること自体が間違いです。

上杉 党内でのパワーバランスを鑑みて、ある程度の論功行賞人事は仕方がないという考え方もありますが……。

中井 政治ではなく、これはゴルフの連載です、上杉さん。あ、でもせっかくだから政治を例に解説しましょうか。

上杉 ますます訳の分からない連載になってきましたね。まあいいや、どうぞ。

中井 まず、上杉内閣には14人の閣僚、すなわちクラブがあるわけですよね。そのうちのどれを起用するか、毎ショット毎ショット、上杉さん自らが決めなければならないわけです。

上杉 なるほど。首相、もといプレーヤーたる私には「任命責任」があるわけですね。さしずめ中井プロは秘書。「もし上杉隆が首相だったら……秘書中井」といったところですか。

中井 ……。ともかく、先ほどのショットはサンドウェッジを起用した上杉さんに、ミスの責任があります。一年生議員を、いきなり外務大臣に起用するようなもんです。

上杉 やや強引なたとえな気もしますが、ひとまず納得しておきましょう。

中井 先ほどの状況は、ピンまで距離がありましたから、パターではなくサンドを任命したくなる気持ちは分かります。しかし、あの状況、ボールがわずかに沈んでいましたし、ピンまではほぼ平らなライン。つまり、サンドで打つのは難しく、逆にパターでタッチを出すのは簡単だったんです。そして、上杉さんもそれには気がついていたはずです。

上杉 たしかにそうですね。

中井 人事ではついつい「論功行賞」をしたくなる。クラブ選びでもついつい「使いたいクラブ」を選びがち。でも、それをグッとこらえる必要があるんです。ゴルフでは、「やりたいこと」より「やるべきこと」を優先させる。番手選びでも、これを忘れてはいけません。「to do」なのか「want to do」なのか。両者の間には、深くて大きな溝があるのです。

クラブ選択は「3回考える」を
習慣にしよう!

044クラブ選択は「論功行賞」ではなく「やるべきこと」で考える
上杉 それを聞いて、ラリー・ネルソンのことを思い出しました。

中井 ああ、全米オープン2勝を誇る名手ですね。

上杉 ある年の全米オープン、第3ラウンドがサスペンデットになり、ネルソンはあるパー3のティグラウンドでプレーを中断したんです。そして、翌日そのホールから再開するまでの間、ひたすら「4番アイアンでフェードか、5番アイアンでドローか」だけを考え続けた――。

中井 なるほど。メジャーを戦う選手たちは「やりたいこと」ではなく、「やるべきこと」を常に考えていますからね。ネルソンの場合、5番でドローを打つのが「やりたいこと」だったとしても、一晩考えて4番でフェードを打つのが「やるべきこと」という結論を出したのかもしれませんし、その逆だったかもしれません。

上杉 ……。

中井 どうしたんですか、急に黙りこくっちゃって。

上杉 ……私が初出場するマスターズ、初日の12番で「使うべき番手」を考えていたんです。うーん、難しい。

中井 ――下手すると一生考え続ける破目になるので、今はやめておきましょう。上杉さんに話を戻すと、論功行賞でサンドウェッジを使ってイーグルを狙うのが「やりたいこと」。しかし、実際は20メートルの距離があるわけですから、しっかりとパターで寄せるのが「やるべきこと」だったわけです。

上杉 やっぱり、カラーからはパターがいちばん安全、ということですか。

中井 それまた違うんですよ。「カラーからはつねにパター」と考えるのも、また「やりたいこと」の範疇です。

上杉 なに~。どういうことでしょう。

中井 ヒントは、2005年のマスターズ、最終日の16番ホールです。

上杉 ああ、タイガーの奇跡のチップイン。サンドウェッジで低くスピンをかけたボールが、カップ手前で一瞬静止した後、コトンとカップインしたショットですね。そうか、あれってカラーから打ったショットか。

中井 そうなんですよ。あの場面では、低く打ち出してスピンをかけるあのショットが、もっとも「やるべきこと」だったんです。実際、タイガーも「あれは計算通りのショットだ」と語っていますしね。

上杉 なるほどな~。

中井 ちょっとテストしましょう。――たとえばこの場所、ピンまで30ヤードの花道ですが、ライは逆目。どういうクラブを選びますか?

上杉 30ヤードは得意距離。サンドでスピンを効かせれば寄るはずです。

中井 どういう球筋をイメージしますか?

上杉 逆目ですからね。少し強めに、上からクラブを入れていった結果低く出たボールが……おかしいな。なぜかグリーンをオーバーするイメージが湧いてきたんですけど。

中井 ですよね。逆目からサンドで球を拾うのはプロでも難しい。「30ヤードはサンド」とか、距離で使用クラブを選ぶのは、まず失敗の元です。

上杉 うーん、じゃあ、パターかなぁ。でも、30ヤードをパターで打つのはイメージが湧きません。

中井 たとえば、52度のアプローチウェッジを使うのはどうですか?

上杉 ああ、普段はあんまり使いませんが、ちょっと薄めに当てて転がすのはアリですね。

中井 ですよね。逆目のアプローチは、少しロフトの立ったクラブを選び、ハンドファーストの度合いを弱めてバウンスを滑らすイメージで打つのが正解です。このように、最低「3回考える」のを習慣化するといいと思います。たとえば僕の場合、グリーン周りでピンが近ければ「パター、A、S」。遠ければ「A、P、8番アイアン」。その中間なら「S、A、P」と、持っていくクラブ自体を変えます。

上杉 ピンまで距離がある場合、サンドは持っていかないんですか。

中井 僕にとってもサンドは「使いたいクラブ」なんですよ。でも、ピンまで距離があるときは、どう考えても「足を使う」アプローチのほうが寄る確率が高いですからね。選択肢をあらかじめ排除しておけば、迷いも生じません。ちなみに、考えた末に「やりたいこと」と「やるべきこと」が一致したら、これはナイスショット確定。「やりたいこと」だからといって、即座に選択肢から外すわけではないことも、付言しておきます。まあとにかく、頭に汗をかき、考えながらゴルフをすることが、マスターズへの近道ってことです。

上杉 あっ。

中井 どうしたんですか、上杉さん。

上杉 ケン・ベンチュリーが、体調不良で何も考えずにプレーして、気がついたら全米オープンに優勝していた、って話を急に思い出した。

中井 そういうのは後で思い出してください……。

 
上達したけりゃ頭に汗をかけっ。熱血ゴルファー・中井プロからの金言です。というわけで僕マグ読者のみなさまにおかれましては、すべてのショットの前に「これは『やりたいこと』か『やるべきことか』」を考える習慣をお勧めします。てなことで来週も、目指せ、マスターズ!



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