僕のマグノリアレーン

2011.06.10

【第21回】
さらば愛しのベン・ホーガン!?

僕のマグノリアレーン

ジャーナリスト・上杉隆がティーチングプロ・中井学と二人三脚で夢のマスターズを目指す本連載。今日も、いつものように鶴舞カントリー倶楽部の練習場で待ち合わせた上杉と中井。初心者の女性をレッスンする仕事が入っていた中井を、上杉は練習しながら待つことになったが――。

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体を前傾させて両腕を垂らすと
自然に角度ができる。

中井プロに習いにきた女性(以下、女性) 中井プロ、今日はよろしくお願いします。クラブを握ったこともありませんが、大丈夫でしょうか?

中井 もちろんです。クラブの持ち方から教えますから、ご安心ください。

女性 はい。

上杉 (数メートル離れた地点で練習中。ちらちらとレッスン風景を盗み見する)

中井 まず、体を軽く前傾させて、両腕をダラーンと垂らしてください。

女性 こうですか?

中井 OKです。そうすると、ほとんどの人は手のひらが体のわきに真っすぐではなく、少し体のほうを向くはずです。

女性 ホントだ! 自然に角度がつくんですね。

上杉 (練習を中断し、両腕をダラーンと垂らし、手に角度がつくのを確認。ちょっと驚いた表情を見せる)

中井 そうしたら、両腕をダラーンと垂らしたときにできた角度を変えずに、左手でクラブを持ってください。

女性 はい。

中井 いいですね。グローブのバンド部分にあるロゴがちょっとだけ見えるくらいが基準です。それができたら、次は右手です。右手は、左の手のひらとピッタリ合わせるようにして、手のひらのくぼんでいる部分で左の親指を包み、中指と薬指の付け根をクラブに密着させてください。

女性 こんな感じ?

中井 そうそう! すごくキレイなグリップです。これで、「クラブの持ち方」は完璧です。

上杉 ちょっと待ったーッ!

中井 うわっ、なんですか、いきなりどうしたんですか、上杉さん。ちょっと待ったもなにも、レッスンの間、ちょっと待っていてくださいとお願いしたのはこちらのほうなんですが。

上杉 どうしたもこうしたもありませんよ、中井プロ。ゴルフを愛するひとりの男として、間違った教え方を見過ごすことはできません。

中井 いったい何が間違った教え方だというのですか。

上杉 グリップのやり方ですよ。中井プロが教えたように握ると、たしかにしっくりくる感じが凄くして、正直とってもいい感じなのは事実です。しかし、レッスン界の不朽の名著であるベン・ホーガンの「モダン・ゴルフ」には、まったく異なるやり方が記されています。

中井 そうですね、ホーガンはグリップしたときに手の甲がターゲット方向を向く「スクェアグリップ」の提唱者ですから。

上杉 自分から非を認めましたね、中井プロ。ホーガンと中井プロ、いったいどちらが世界的に信頼度が高いかといえば、もはや比較するまでもないこと……。残念ながらホーガンに逆らって生きていくつもりはありません。

中井 まあまあ、そう言わずに、そのグリップで一球打ってみてはどうですか、上杉さん。

上杉 そうですね、一球くらいは打ってみてもいいでしょう。どれどれ……(と、打つ)。むむむ、なにっ。

中井プロ流のグリップで
打ってみると……。

021
中指と薬指の根元にグリップを密着。自然にグリッププレッシャーが弱まる……
中井 どうでしょうか?

上杉 ものすごく打ちやすい! なんだこれ。両手がピタリと一体化して、体の右サイド全体で球を押し込む感覚がします。ホーガンと違う握り方なのに……。

中井 上杉さん、ベン・ホーガンの「弱点」ってご存知ですか?

上杉 ホーガンの弱点? あの“鉄人”と呼ばれた20世紀を代表するベストスウィンガーにも、弱点があったんですか。

中井 ええ。ホーガンはひどいフック持ちだったんですよ。そして、どうすれば左へ曲がるミスが出ないかを考え抜いた結果、辿りついた答えのひとつが、あのスクェアグリップだったんです。

上杉 ホーガンのグリップは、フックを防ぐためのものだったのか。

中井 「モダン・ゴルフ」は、そもそも「アマチュアに教えるための本」ではなく、ホーガンが「私はこのように振っている」ということを解説した本ですからね。クラブもホーガンの当時から大きく進化していますから、すべてが一般のアマチュアゴルファーに当てはまるわけではないんですよ。

上杉 確かにそれはそうだな。ホーガンがトリプルスラム(注1)を達成したのは約60年前。時代も変わり、ゴルフも変わり、そしてグリップも変わったのか~。なるほど~。それにしても、凄いですねこのグリップは。とくに、右手の中指と薬指の付け根をグリップに密着させるだけで、こんなにも両手の一体感が生まれるとは――心なしかグリッププレッシャーも弱まった気がします。

中井 イメージ的には、柔道の「極(き)め技」です。あれって、力ずくで相手を押さえつけているのではなく、しかるべきポジションを押さえることで、相手の身動きを封じているらしいんです。グリップも同じ。「握る」という機能が集中している薬指をメイン、その補助として中指をグリップに密着させれば、力を入れなくてもグリップはきっちりと保持されるんです。

上杉 そうか、正しく握れば力を入れる必要がないわけですね。

中井 その通り。今までの上杉さんのグリップは、「力まないとしっかり握れない」グリップ。それが、右手中指と薬指をグリップに密着させることで「自然に脱力してしまう」グリップになったというわけです。いいグリップをすれば自ずと力は抜けるんです。

上杉 うーん、いいことを聞きました。

女性 あの~。

上杉 あっ。

女性 私、レッスンの途中なんですけど……。

中井 あっ……。すみません、ついうっかり話に夢中になってしまって。そうだ、もしよかったら、上杉さんも一緒にレッスンを受けませんか? 初心者の方と一緒に習うことで、今回のグリップのように、新たな発見があるかもしれませんから。

上杉 マスターズを目指す私が初心者と一緒にレッスンというのはちょっと物足りませんが、原点回帰は大切ですものね。(女性に向かって)もし、お邪魔でなければ。

女性 もちろん、私は構いません。

中井 ではしばらく、「スウィング原点回帰」というテーマでいきましょう。

上杉 原点回帰かぁ……。原点回帰といえば、思い出すのは15年前の10月のあの日です。

中井 なにがあったんですか? その日に。

上杉 時は1996年10月。その日、民主党の結党後初の党大会があったんですよ。当時、私は兄である由紀夫議員とともに民主党を立ち上げた鳩山邦夫議員の秘書でしたから、その場に立ち会っていたんです。

中井 ほうほう。面白そうな話です。まさに、現政権の「原点」というわけですね。

上杉 会の冒頭に、結党時の代表だった由紀夫議員が、ハート柄のネクタイを締めて壇上に上がり、こうスピーチをはじめたんです。(鳩山前首相のモノマネで)「みなさま~、このネクタイは~、妻の幸からもらったものです~。……ハート、ハート、ハート(鳩)山で~す」ってね。

中井 ……本当ですか、上杉さん。いくらなんでも作り話な気がするんですが。

上杉 私は事実をそのまま述べたまでです。あの瞬間、まさかその13年後にあの方が日本の首相にまで上り詰めるとは、想像すらできませんでした。ともあれ、あの日が今の民主党の原点なのは異論を待ちません。現政権にも、民主党結党時の原点に回帰し、「ハート」のある政治を心がけてほしいですね、本当に。

中井 その「原点回帰」はあまり必要ない気がするんですけど……。

 
まさかの民主党結党裏話まで明かされた! どこに行くのか、本連載。とはいえもちろん来週も、目指せ、マスターズ(本来の趣旨)!

注1 ベン・ホーガンは、1953年、マスターズ、全英オープン、全米オープンのメジャー3試合同一年制覇という偉業を達成している。



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