僕のマグノリアレーン

2011.05.12

【第17回】
セベの遺志(と弾道)は、おれが継ぐ!

僕のマグノリアレーン

マスターズを目指す! そう宣言したジャーナリスト・上杉隆と、それをサポートするプロコーチ・中井学の二人三脚空想ゴルフレッスンドキュメント「僕のマグノリアレーン」。レッスンに励むふたりの元に飛び込んできたのは、スペインの英雄、セベ・バレステロス死去の報だった――。

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中井 セベ、亡くなってしまいましたね。54歳、あまりにも若い。訃報が届いたのは、ちょうど上杉さんとラウンドしている最中でした。

上杉 その日、私はセベの病状の回復を願い、セベになり切る「祈祷」プレーに徹していたんです。それがまさか、「追悼」のプレーになってしまうとは……。

中井 私は小学校時代にセベが勝った全英オープンを見てゴルフをはじめましたが、上杉さんのセベへの思い入れは、そんな私と比べても半端じゃない。はじめて、あんなに動揺している上杉さんを見ました。

上杉 高校時代、私は学生手帳にセベのブロマイドを挟み、紺のセーターに紺のスラックスという“セベルック”に身を包んでいました。学校ではホウキをクラブ代わりにセベのスウィングを練習し、放課後は渋谷のセンター街を、フェアウェイを闊歩するセベになり切って大股で歩いていました。正直、自分は本当にセベなんじゃないか? と思っていたくらいです。

中井 そこまでいく人はなかなかいませんよね。

上杉 勉強よりも、ガールフレンドとの恋よりも、セベこそが私の青春そのものだったんです。ああ、セベ……、なんで逝ってしまったんだっ。

中井 上杉さん、本当にセベが好きですもんね。冗談抜きで。心中、察します。

上杉 ――決めましたよ、中井プロ。

中井 なにをですか。

上杉 決まっているでしょう。セベの遺志を継ぐことですよ。セベは、きっとまた競技の世界に戻ってきたかったはずです。シニアツアーはもちろん、全英オープンや、マスターズの舞台にだって、もう一度立ちたかったに決まっています。

中井 うーん、たしかに、その通りに違いありません。しかも、奇しくもこの連載の趣旨は、「マスターズ出場を目指す」というものです。

上杉 そうです。セベと同じスペイン出身のガルシアやヒメネスには悪いけれど、セベの遺志を継ぐのは、かつて「都立広尾高校のセベ・バレステロス」と自称していたこの私にほかなりません。セベはもう2度とマスターズに出られない。ならばこの私が出るしかないでしょう!

中井 いや~、気合が入ってきましたね。一丁、本気でやりますか!

オーガスタ攻略には欠かせない
セベのハイドローを打つには?

上杉 ……さて、セベの遺志を継ぐことは決定しましたが、具体的になにからはじめればいいんでしょうか。

中井 そこですよね、問題は。上杉さん、先日の「Save The IBARAKIチャリティゴルフ」(上杉が主催した被災地支援のためのチャリティオープンコンペ)でのスコアはいくつでしたっけ?

上杉 ……です。

中井 えっ? すいません、聞き取れませんでした。

上杉 ……88です。

中井 88。88、88かあ~。もちろん、80台は立派なスコアですが、レギュラーティからのラウンドだったこともあり、マスターズに出るためには68くらいで回っておきたいところ。うーん、差し当たり20打、スコアを減らす必要がありますね。

上杉 違うんですよ、中井プロ。当日一緒にラウンドした中畑清さん(野球解説者)がギャグを飛ばしまくるから、私のボールもあっちこっちに散ってしまったんです。さらに笑いすぎで腹筋も痛くなってパターも入らなかったし……。

中井 セベの遺志を継いだのに、言いわけとは情けないですよ、上杉さん。

上杉 いや、言いわけではなく真実の報道を……。ま、いいや。それより20打減らすためになんとかしてください。セベの遺志を継いだ男として、今後、下手なスコアは叩けませんから。

中井 よし、では今週からは以前にも増して、厳しく指導していきますよ。そうだ、セベといえばハイドロー。手始めにあの球筋を手に入れましょう。

上杉 いいですね~。セベといえば、あの高弾道。そして、ドローはオーガスタ攻略、とくに13番、15番といったロングホールで2オンを狙うための必須の球筋です。

中井 ドローはスピン量が少なく、ランも含めた飛距離アップが期待できます。しかも、確実にドローが打てれば、右が怖いホールでも思い切って打っていけますからね。とはいえ、いきなりドローを打つのは難しい。手始めに、確実に左に曲がるフックボールから覚えていきましょう。まず、上杉さんなりにフックを打ってみてください。

上杉 了解です。任せてください(と、打つ)。……どうです?

中井 うーん、微妙です。たしかにボールはフック回転(左回転)していますが、飛球線よりやや左に出て、そこから左に曲がる球ですね。一歩間違うとチーピンになる危険性があります。いま、上杉さんはどんなイメージで打ったんですか?

上杉 スペインはカンタブリア州・ペドレーニャに吹く風をイメージし、あくまでも緑一面の草原を、3番アイアン片手に走り回る幼き日のセベをイメージしました。

中井 なるほど。え~と、そのイメージはいったん忘れてください。想像力だけではドローはおろか、正しいフックも打てません。

上杉 なんと! 想像力を否定する。ゴルフは想像と創造のスポーツであることをお忘れか? 中井プロは一体その何を学んできたのでしょうか?

中井 はいはい、そうですね。では、ここで大切なポイントなのですが、フックを打つのにスウィングを変える必要は一切ありません。

上杉 またまた、さすがにそれはないでしょう。本当のことを言えば、先ほどのショットは通常よりもインサイドからクラブを下ろし、左サイドの壁と、ヘッド・ビハインド・ザ・ボールを意識して打ったんですよ。それこそ完璧なドローの秘訣ではないのでしょうか。

中井 実に見事な勘違いです。必要なのは、①打ち方を「変えない」こと。そして、②構え方を「変える」ことです。つまり、変えるべきはスウィングではなくアドレスなんです。まず普通に、目標に対してスクェア(飛球線とスタンスが平行)にアドレスしてください。

上杉 はい。

中井 そうしたら、フェースの向きはそのままにしておいて、スタンスのラインを、そうだなぁ、あの大きな木に向けてください。体はスタンスのラインに対してスクェアにセットします。

上杉 ちょっと待ってください、中井プロ。あの大きな木って、ほぼ右斜め45度の方向じゃないですか! あの木の先は1番ホール。そのまま打てば、私のスーパーショットがフェアウェイを歩いている女性ゴルファーたちを脅かすことになりはしませんか。どうするんですか、危ないし、その上、恋に落ちでもしたら……。

中井 いいから、そのスタンスで打ってみてください。スウィングはいつも通り、真っすぐ飛ばすつもりで打ってもらえばOKです。

スウィングは変えずに
アドレスを変える!

017
左の写真が通常のアドレス、右の写真がフックを打つためのアドレスだ
上杉 まあ、試しに打ってみます(と、打つ)。おおお……!、なんとっ!

中井 素晴らしい。やや右方向に高く打ち出されたボールが、弾道の頂点からフック回転でターゲットの左に戻ってきましたね。いやあ、上杉さん、本当にスウィングが良くなりましたね。キャリーも240ヤードくらい出ています。

上杉 これは驚きです。出た球筋もさることながら、こんなに簡単に球筋が変えられるとは。スタンスを変えただけなのに……。

中井 フェースを目標に向けたままスタンスを右に向ける。やることはそれだけでいいんです。その状態でスタンスなりに振れば、フェースは体に対してはスクェアですが、スウィング軌道に対してはクローズになります。そして、多くの人が勘違いするところなのですが、ボールの打ち出し方向はスウィング軌道ではなく、フェースの向きによって決まりますから、自然に右に出て左に戻るフックボールになるというわけです。

上杉 うーん、理屈を聞けば納得です。そうか、スウィングは変えなくていいのか。

中井 むしろ、「変えてはいけない」です。「左に曲がる球を打とう」と思うあまり、インサイドからクラブを下ろそうとか、左サイドに壁を作ろうとか、余計な意識が働き過ぎると、かえってミスを誘発しますから。

上杉 いやー、中井プロ。素晴らしいレッスンをありがとうございます。

中井 あれ? 今週はいやに素直ですね。

上杉 当然ですよ。あの頃のセベは、林に打ち込んでも、駐車場に打ち込んでも、決してあきらめずにピンだけを狙っていました。その姿勢と奇跡的なリカバリーショットに、当時10代の私は限りない憧れを抱いていたんです。いつかはセベのようになりたい。それだけを願っていたんです。このフックがあれば、いくら左の林に打ち込んだって、そこからセベのようなリカバリーが可能です。よ~し、これからはガンガン林に打ち込むぞ!

中井 それはちょっと違う気がするんですけど……。

 
というわけで、今週からは「マスターズに出る!」に加え「セベになる!」という目標も加わった本連載。天国のセベに代わって、来週は本格的なドローボールを打つためのレッスンがはじまります。目指せ、マスターズ!



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